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住宅宿泊事業法(民泊新法)成立

記載日:平成29年6月10日 リンク先追記:平成29年7月30日

記載担当:行政書士小坂谷麻子

平成29年に入って、大阪市の特区民泊のご相談が増える中、ついに、平成29年6月9日に住宅宿泊事業法が成立いたしました。

この法律は、国内外の宿泊需要に対応しつつ、事業者の業務の適正を推進しながら、国民生活の安定向上や国民経済の発展に寄与することが目的とされています。

住宅宿泊事業は、「住宅」を一定の要件で1日単位で宿泊させるサービスですが、住宅として利用することが前提であるため、一定の要件、つまり1年間で180日以内で利用することが絶対的な条件となっております。従って、それを超えてサービスを提供する場合には、従来通り、旅館業法か、特区民泊を利用する形となります。一方で、住居専用地域での利用も可能になる可能性もあります。

【住宅とは】
この法律において「住宅」とは、以下のように定義されています(第2条1項1号、2号)。
①当該家屋内に台所、浴室、便所、洗面設備その他当該家屋を生活の本拠として使用するために必要なものとして国土交通省令・厚生労働省令で定める設備が設けられていること
②現に人の本拠として使用されている家屋、従前の入居者の賃貸借期間の満了後新たな入居者の募集が行われている家屋、その他の家屋にあって、人の居住の用に供されていると認められているものとして国土交通省令・厚生労働省令で定めるものに該当するもの

【住宅宿泊事業に係る届出制度の創設】
◆届出制度(第3条第1項)
住宅に180日を超えない範囲で宿泊させる制度を行う場合は、都道府県知事や保健所を管轄する市等の長へ、住宅ごとに届出をする必要があります。ただし、宿泊可能日数は、地域の実情を反映して条例で制限をすることが可能です。
◆種類
(1)家主不在型(ホスト不在型)届出の他、原則として、住宅宿泊管理業者に住宅の管理を委託することを義務づけます。ただし、政令に定められたケースで、委託を行わなくても適切な事業の実施に支障がない場合は、委託が不要なケースもあります。
(2)家主居住型(ホームステイ型)住居内に居住しながら、自宅の一部を利用者に利用させること。原則住民票が必要。
◆住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置等
・宿泊者の衛生の確保(第5条)
・非常用照明器具の設置や、避難経路の表示やその他災害が発生した場合に宿泊者の安全確保に必要な措置で政令で定めるものが必要(第6条)。
・設備の使用方法に関する外国語を用いた案内、移動のための交通手段に関する外国語を用いた情報提供、その他外国人観光客である宿泊者の快適性及び利便性の確保を図るために必要な措置であって国土交通省令で定めるもの(第7条)
・宿泊名簿(第8条)
・宿泊者に対する騒音防止等の説明(第9条)
・苦情への対応等(第10条)
◆住宅宿泊管理業者への委託 (第11条)
家主不在型の住宅宿泊事業、あるいは、届出住宅の居室が一定数以上ある時は、住宅宿泊管理業者への委託が義務づけられています。
◆住宅宿泊仲介業者・旅行業者への委託(第12条)
住宅宿泊事業者は、宿泊サービス提供契約の締結の代理又は媒介を他人に委託するときは、住宅宿泊仲介業者又は旅行業者に委託しなければなりません。
◆建築基準法との関係
「住宅」「長屋」「共同住宅」又は「寄宿舎」とあるのは、届出住宅であるものを含むとする規定があります(第21条)。
◆命令等
都道府県知事は、住宅宿泊事業の適正な運営を確保するため必要がある場合には、業務改善命令(第15条)、業務停止命令(第16条)、報告徴収及び立入り検査(第17条)が定められています。
◆その他
届出住宅の標識の掲示(第13条)や、定期報告(第14条)等が必要です。

【住宅宿泊管理業(家主不在型住宅宿泊事業等の管理受託業)に係る登録制度の創設】
◆登録制度(第22条)
・報酬を得て住宅宿泊管理業を営む場合は、国交省大臣の登録が必要となります。
・5年ごとに登録の更新が必要となります。
◆義務
住宅宿泊管理業者(住宅宿泊事業者から委託を受けて、報酬を得て、住宅宿泊管理業務を行う者)は、管理委託契約の締結時に委託者に対して、契約締結前に管理委託契約の内容について電磁的文書も含めて書面交付をして説明する義務があります(第33条第1項、第2項)。また、締結時の書面も同様に交付義務があります(第34条第1項、第2項)。
民泊新法施行後は再委託ができません(第35条)。
宿泊者への衛生の確保の措置の代行を義務づけられます。
◆命令等
業務改善命令(第41条)、登録の取消等(第42条、違反等があった場合の措置)、登録の抹消等(第43条、更新を行わずに失効した場合や法人の合併等で消滅した場合など)、監督処分等の公告(第44条)、報告徴収及び立入り検査(第45条)が定められている。

【住宅宿泊仲介業に係る登録制度の創設】
◆登録制度(第46条)
住宅宿泊仲介業(報酬を得て、宿泊者と住宅宿泊事業者との宿泊サービスの提供の媒介を行う事業)を営む場合は、官公庁長官への登録が必要となります。
5年ごとに登録の更新が必要となります。
◆義務
住宅宿泊仲介業の適正な遂行のための措置(宿泊者への契約内容の説明等)が必要となります。
法令に違反する行為を行うことをあっせんしたり法令に違反するサービスを行うことはできなくなりますので、やみ民泊のあっせんは、住宅宿泊事業法施行後は違法となります。
違法な民泊に対する削除命令がなされることもありますので、無届の住宅宿泊事業、管理会社へ委託していない家主不在型住宅宿泊事業、180日を超えて宿泊させる住宅宿泊事業などは、削除の対象となります。
◆命令等
業務改善命令(第61条)、登録の取消等(第62条、第63条)、登録の抹消(第64条)、監督処分等の公告(第65条)、報告徴収及び立入検査(第66条)
なお、届出、登録には、事業主の欠格事由等も定められております。

【罰則等】
◆国土交通大臣の登録を受けずに住宅宿泊管理業を営むもの、不正の手段により住宅宿泊管理業、住宅宿泊仲介業の登録を受けたもの、名義貸しにより住宅宿泊管理業、住宅宿泊仲介業を営ませた者は、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処し、又は併科すると規定されています(第71条)。
◆住宅宿泊事業者については、虚偽の届出をした者、業務改善命令違反をした者は、一年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すると規定されています(第73条)。
◆その他も細かく罰金等規定されております。

【この制度の利用の場面】
◆180日制限
このように、180日の制限があるために、ビジネスとして利用には、制限があることは否めません。新しく物件を購入して、そこから収益を・・・といったものとは全く発想が異なりますので、従来どおり、旅館業法、あるいは、特区民泊の利用を検討する方も多いと思います。実際、大阪市では、特区民泊の件数が着実に増加しており、◎日時点、大阪市のサイトに掲載している資料によると、 件が登録されております。

◆利用のシーン
ただ、それでも、いろいろと活用できる場面はあるのではと個人的には思っております。ビジネス展開としてマンスリーマンション+民泊といった新たなスキームも登場しているようですが、行えるビジネスにどのようなものがあるのか、いろいろと知恵をしぼる必要がありそうです。どういうものが「住宅」として認められるのかは、今後の具体化をまたなければなりませんので、以下は、現時点での単なる「妄想」です。

外国へ短期留学等するチャンスの多い学生さんなどは、家主さんの承諾のもと、その間、家主不在型等で届出をして、学費の足しにするなんてことも可能かもしれません。

また、お寺の建物での宿泊も、可能なケースも出てくるかもしれません。建物としても、文化体験としてもいろいろな魅力がありますので、もし、実現できれば、面白そうです。

また、例えば、相続財産などで住まれていた方がなくなった・・・といったケースについて、家主不在型で届出をしつつ、遺産分割協議に入る・・・といったことも可能になるかもしれません。不謹慎な・・・と思われるかもしれませんが、建物は人が住まなくなると、とたんに傷み始めます。大切な財産の価値を損なわないためにも、有効活用をする選択肢の一つとしてあってもよいのではと思います。

この制度の限られた制約の中で、どんなことができるのか、どんな使い道があるのか、そんなことを妄想するのも、また楽しいことです。

今後、具体的な基準は政令や省令で定められ、各自治体の条例等で日数の引き下げ等される可能性もあります。早ければ平成30年1月が施行と言われておりますので、また、詳細が決まってきましたら、随時お知らせしたいと思います。

 

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